「さて、そろそろ飛行機に乗りますか。」

カフェ屋の椅子から腰を上げカバンを持ち上げようとしたら、
さっき足元に置いていたはずのカバンが神隠しに遭ったように突然なくなっていました。
店中を確認しましたがときすでに遅し。
あとは、「やってもうた…。」と舌打ちしながら眉間にしわを寄せるだけ。

渡米前のワクワク感に完全に自分を征服されていて大事なことをすっかり忘れていました。

成田のゲートをくぐったら、そこはもう外国やった……。

これは搭乗3分前に起きた悲劇。失ったものは、

商売道具のバッシュ、奇跡の復活を信じて持ってきたパソコン、デジカメ、
電子辞書、苦労して作ったNY州IDとソーシャルセキュリティナンバーカード、
そして、家族の写真と僕が初めて表紙に載った月刊バスケットボール。

大事なものは肌身離さずとわざわざケースに入れずに機内持ち込みにしようとしたもの達。

確実に今の僕の身の回りにはこれら以上の金目の物と宝物はないでしょう。
それら全てが僕の心に大きな傷だけを残して何者かに盗まれてしまったのです↓

「パスポートと財布があっただけましっすよ…(泣)。」

引きつった顔で苦し紛れのプラス思考を自分に投げかけることくらいしか
その場を凌ぐ手段は見つかりませんでした。
痛みには強い方だと思うけれど、今回の傷はなかなかでかいですね。
どうかお願いやから早くかさぶたになって剥がれ落ちてくれ!

さて、暗い話はここまで。

その後は何とか飛行機に乗り込み怒りの大爆睡をスッチーに披露した後、
久しぶりにLAの地に降り立ちました。
空港からホテルへと移動するハイウェイ上では見覚えのある懐かしい地名がチラホロ。
中でも最も衝撃を受けたのはもちろん<Long Beach >。

僕がアメリカでバスケをするきっかけになった運命の場所。

と同時に、「侍になってきます!」
と意気込んで行った僕を見事に返り討ち、落ち武者にしてくれた思い出の地。

自然と昔を思い出して旧懐の情と「ありがとう」という感謝の念が沸き起こっていました。

あの頃にはほとんど見えなかったものが、少しは見えるようになりましたよ。
そして、初心に還るにはどうやらここがいいみたいです。

さあ、トライアウト頑張ろう。

まだ運はたっぷり残っとるやろ??