練習が始まりいつも通り壁に向かってストレッチ。隣には蒲谷。
蒲谷の隣には…
いつも隣にいるはずの『あいつが』いない。

学生の代表時代には3人で一緒にコートに立って国際試合を戦った。

結構さかのぼることになるけど、今でもはっきりと“楽しかった”ことは覚えている。
またそんな日が来れば。口に出さずともいつもお互い思っていること。

「痛くても痛いと口に出してはいけない。

辛いと悟られないように明るくガンガンいかなければならない」
まるで体育会系の部活のような決まり事を設定して毎日を過ごしていたのかもしれない。

ぼくらの前では一度も弱みをみせることはなかったから。

だからこそ、あえて励ましや応援の言葉もかけなかった。

黙っていることも思いやりのひとつだと思うけど、それもしない。
いつも通り蒲谷と中身のない話をふっかけて一緒にふざけるだけ。

それがぼくらのやり方。

「猛獣用の麻酔じゃなくて大丈夫か(笑)?」

最後にストッレチをしながら話した内容でさえこのレベル。
不謹慎なのはわかっちゃいるけど、あいつも笑っていたから。

そんなぼくらもいま一生懸命、千羽鶴を折っている。

不器用だから数には自信が持てない分、ひとつひとつに心を込めながら。

タクヤ、手術頑張れよ!